「今年1年はオリジナルの新作を書かない」

――― 「DisGOONie」の第4弾公演!いよいよ詳細が公開となりました。
率直な思いとして、お願いします。

西田  実は、「今年1年、舞台ではオリジナルの新作を書かない」ということを決めたんです。

――― そうなんですか!?それはちょっと驚きました!そのように決めた理由、きっかけなどあればお伺いしたいのですが・・?

西田  自分が戯曲というものを書き始めてから20年という時があって。毎年、なんだかんだ言いながら3本ないし4本書いてきた中で、苦しみながらも「自分の筆が止まることはないんだ」っていうのを自分に課し続けてきたんです。いわゆる「枷」というか。でもだからこそ「生まれたモノ」がたくさんあったんですね。自分が創ってきた物語、年を経て自分が手に入れてきた感性、全部含めて、一つの区切りを感じることはあって。
その中で「書かない」でやってみようと思ったのは、AND ENDLESSの20周年で、去年の年末に『ENDorphin』っていう作品※1を創ったのが大きいかな、と。
自分にとって、大切なものになりましたから。

――― 「枷」という言葉がありました。勿論、新作を書くとういうのも大変な作業ではあるとは思いますが、「書かない」とういのも、西田さんにとっては「枷」になるんでしょうか?

西田  全くその通りです。この20年の中で「あえて、書いてはいけない、という枷」を課したことがなかったものだから。自分がこの1年、どういう風にモノを創るんだろうか?とか、例えば苦しんで書いていた癖に、あえて「書きたい」とういうことを思うんじゃないだろうか?とか。
新しい物語を創らなかった時に、そのエネルギーはどこに向かうのか?みたいなことを考えたんです。だから「あえて逆の枷を課して」みたいなイメージがあるんですよね。

――― なるほど、どちらにしても大変な思いがあるんですね。その思いの中、新作ではない作品で挑む今公演、「3本立て」ということに関しても、また特別な思いがあるんですか?

西田  あるんです(笑)これまで自分が創ってきた作品の中には、「思い入れが強すぎる」とか、「すごく大好きなんだけど、今の自分の時間軸と合ってない」とか、「この面白いシーンを創るがために、あえてたくさんのモノをブチ込みすぎて創ってしまった」とかいう物語があるんですね。そこが浮かんだんです。
つまり、今の自分とはある種、歪な関係ではあるんだけれども、どうしても愛おしいという作品が、自分の20年の中にはあって。
ならばその作品を、もう一度宝箱から出してみようと思ったんですね。
それが今回の3作品なんです。

――― それがタイトルとどう繋がるんですか?

西田  そしてそれは、どこか「DisGOONie」の由来である『グーニーズ』の映画※2の中で、主人公の少年たちの最大の敵であるフラッテリー・ママの3人の息子たちと、どこかちょっと共通するようなモノを感じて、今回の『From Three Sons of Mama Fratelli』というタイトルが生まれたんです。

――― 今公演のタイトルには、そういう意味が込められていたんですね。「DisGOONie」の第1弾公演は、『From Chester Copperpot』※3という、同じく映画『グーニーズ』と関連したタイトルでしたが、何か繋がりはあるんでしょうか?

西田  僕らはよく「DisGOONie」という場所を「船」に例えてるんです。
そして作品を創り、上演することを「航海」と捉える。観てくれる観客の皆さんと共に乗船する航海です。

始まりの第一弾を、『グーニーズ』の冒険の始まりの鍵となるチェスター・コパーポットの残した地図とした所から、今度はいよいよ、フラッテリー一家と対峙しながら洞窟の中に入っていく、という流れにもなるかなぁ、と思って。

――― なるほど!

西田  今、この作品たちを創れば、あの作品たち、つまり息子たちの華やかな部分というか、晴れやかな部分、あの時の自分では描けなかったことが、描けるんじゃないか?と思ったんです。「DisGOONie」っていう場所で。
今回はより大きい海で「航海」することになるんですけど、それならば、それくらい大きくて大変なことにも挑戦しよう、と。そういうのも自分にとっては大事なことのような気がするんですよね。

「原点」、「王道」、「真骨頂」

――― それでは今回の各作品について、より詳しくお話を伺いたいのですが・・、まず『枯れるやまぁ のたりのたりとまほろばよ あぁ悲しかろ あぁ咲かしたろ』からお願いできますか?

西田  僕の作品の中でもたった一つしかないんですけど、「猫が主役」なんです。2匹の猫。後、茶々という1人の姫、・・茶々は豊臣秀吉の奥方であり、織田信長の妹・お市の娘でもあるんです。
その2匹と1人を軸に、天下の大泥棒・石川五右衛門と、織田信長亡き後、天下を取った豊臣秀吉という2人の男が登場します。秀吉を敢えて「天下を泥棒した男」と捉えて、この2つの勢力に、2匹の猫が絡んでいく物語。
この作品の上演に関しては、去年、武田勝頼VS織田信長の長篠の戦いを『SSS』という作品※4で創らせていただいたんですけど、その時から構想にあったんですよね。
これまでに、戦国時代をたくさん舞台にしてきた中で、織田軍には思い入れがあったりするんですけど、今回『SSS』の織田軍団がそのまま出て来るので、『SSS』との繋がりもあります。つまりは「続編」でもあり、「外伝」でもあるんです。
また、これは、西田版「清州会議」※5でもあるし、西田版『CATS』でもあります(笑)

――― (笑)。それは、とても興味深いですね(笑)。

西田  「涙を捨てる」っていう言葉がこの作品テーマでもあるんですけど、自分の中で、当時「笑って泣けるエンターテイメント」という言葉に対するアンチテーゼもありまして。そういうモノでなくても、人の心を動かすことが出来るものって何なんだろうな?みたいなことをずっと考えてたんです。で、そういう思いの勢いを全部ぶっ込んでやろうと思った作品でもあるんです。そういう意味では、挑戦的で荒々しいんですけど。(笑)
でもこれがなければ僕が創ってきた、難解な『四谷怪談』※6や『知り難き~』※7、『ENDorphin』然り、それも生まれなかったんじゃないかと思っているんです。

――― この作品に出演される役者さんについても色々とお伺いできますか?

西田  今回、その2匹の猫を田中良子さん、谷口賢志くんが演じます。「DisGOONie」という「船」の舵を取っていく中で、ずっと重要な所を任せて、担ってくれていた2人です。そして、茶々は佃井皆美さん。彼女にもすごい信頼を置いてますし、賢志の猫っていうのも面白いなって思いませんか?(笑)
また、田中良子が、何を経て今ある形になっていったのかっていう、最初の片鱗が見えるような作品でもあるんですよね。そういった意味でも、他では観たことない世界観の作品ではあるな、っていう思いもあります。『SSS』の連中も全員勢揃いで(笑)。SHOGOくんもそのまま家康として参戦してくれますし、窪寺くんの秀吉、孝太郎くんの利家、さくちゃんの勝家、全てがもう一度同じ場所に集結するっていうのも、それはそれで趣があるんじゃないかなぁと思ったんですよね。

――― それでは次に『GOOD-BYE JOURNEY』についてお聞かせください。

西田  ドンレミという小さな村にいたジャンヌ・ダルクという1人の少女が起こした奇跡。オルレアンを解放して、「時代の救世主」になったけれども、最後は魔女裁判にかけられで死んでいく史実があります。
歴史に埋もれている人は、ウィキペディアとか年表や文献でしか見れないし、語れないけれども、その歴史年表の行間が大事だと思うんです。この一行と一行の事実の中、「行間にあった真実とは何なのか?」っていうことこそ、表現のイマジネーションの源だなっていう思いがあるんですね。それが僕の「王道」の物語でもあるんです。
この作品はその中でも、僕にとって一番の王道だなと思える作品。
だから『枯れるやまぁ~』とすごく対照的で、それをあえて今回同時に上演するってことには意味があるんですね。もしかするとこの作品は、「今回やるために生まれたものかもしれない」とさえ、思っています。

――― そのジャンヌ・ダルクを演じられる文音さんですが、西田さんの作品に出られるのは今回が初めてですね。

西田  この「船」に乗ってくれる仲間っていうのは、基本的には、「信頼出来る仲間」っていうのが前提にあるんですが、多分、彼女は、(今回出演の)誰ともほとんど面識のない女優さんではあるんです。それは例えば、ジャンヌ・ダルクがそうであったように。
でも、会ってお話をさせていただいた時に、非常に、まっすぐ凛とした女性だなぁという印象があって。今回のジャンヌ・ダルクと共通していると思ったんです。
ジャンヌがその人生という「旅」の中で、どういう景色を見たのか、っていう事と、
彼女がこの「旅」を通して、どういう景色を見るのか、っていう事は、僕の中ではリンクしているような気がするんですね。だからこそ、彼女を真ん中に据えて、全てを彼女に託したいなと。
だからこそ僕の信頼できる、共に荒波を乗り越えてきた、中村誠治郎くん、村田洋二郎くん、伊阪達也くんを始めとする歴戦の強者たちをドンと並べて、一番パッションのある舞台を創りたい。と。

――― 続いて『SECOND CHILDREN』についてもお聞かせいただけますか?

西田  これこそ正に『From Three Sons of Mama Fratelli』の真骨頂とも言えるべき作品だと思っていて。個人的に非常に大好きな作品なんです。
逆に好きすぎて、何か簡単にやりたくないなぁという思いもあったんですね。
平賀源内という、1人の天才であり、明るく笑う男の悲しみを、じっくりと、その友を通して描きたかったんです。そしてこの作品だけは、萩野崇さんをおいて他に上演することは多分ないな、とも思っていました。

――― その萩野さんを通して描く物語とは?

西田  「悲しい話」なんですよ、もう。(笑) 敢えて先に言っておくと、とてつもなく「悲しい話」。だけど平賀源内は、「悲しい話は嫌いだ」って、あえてそう言葉にして、物語は動いていきます。
「人が人を想う」ということを、天邪鬼な性格の僕なりに真正面から捉えた作品、かなと。
戯曲はシンプルなんですが、一見読んだだけではわからない所が散りばめられていて、舞台という劇場と、平賀源内というかもう、俳優・萩野崇を通して、見て欲しいなっていう思いがあります。

――― 平賀源内の親友・杉田玄白役は西田さんが演じられるわけですが、この「平賀源内と杉田玄白」の関係性と、「俳優・萩野崇と西田大輔」の関係性にリンクするような部分もあるんでしょうか?

西田  実は企画段階で、萩野さんと話した中で、今回船に乗ってくれているメンバーの中で、「杉田玄白は誰がいいですか?」って、もう率直に萩野さんに聞いたんです。そしたら「西田さんでお願いしたいです」って言葉を言われて。で、覚悟を決めました。(笑)
でも僕は、その「萩野さんの言葉の意味」と、「その言葉を受けて、舞台に立つ自分」ということも、「悲しい話は嫌いだ、という言葉の答え」のような気がしていて・・。杉田玄白が平賀源内の墓碑に記した言葉あるんですけど※8、その言葉通りのように、萩野崇という俳優の魅力を伝えるべく、真正面から舞台に立って対峙したいなという強い思いがありますね。

「挑戦し続けなければ意味がない」

――― それでは、最後に今公演を楽しみにしているお客様に対して一言お願いします!

西田  「DisGOONie」は、今の演劇界の流れの中、もうホント荒波のような所に立ち向かうような気持ちでいて、そこに「挑戦し続けなければ意味がない」って思ってるんです。昨今の演劇界が興行主体で動いてる中、この公演を通して、「オリジナルと俳優主体」で動くっていうことをやり続けたい。それが間違いか間違いじゃないかの答えは、きっと今出るものではないんだろうけど。
でも、言うならば、こういう面白い「船」に、是非とも皆さんが一緒に乗ってくれて、例えば、「劇場にしかなかったんだぜ」、「この物語、自分しか知らないんだぜ、」ていう楽しみ方も、演劇の最大の魅力なんじゃないかな、って思ってるんです。だから、この「船」に初めて乗る方もそうですし、一度乗ってくれた方はもう一度、この「最大の挑戦」を見届けて欲しいなと思っています。心から。もっかい言います。心から。
もう、これコケたら沈没なんで。(笑)

  1. AND ENDLESS 本公演、eighty seasons and endless『ENDorphin』。2016年12月上演。
  2. 伝説の海賊が隠した財宝を探す少年たちの冒険を描いた1985年製作のアメリカ映画。
  3. DisGOONie presents vol.1『From Chester Copperpot』。『The Tempest』、『Cornelia』、『New World』の3本立てで2015年11月に上演。
  4. DisGOONie presents vol.3『Sin of Sleeping Snow』。2016年6月上演。
  5. 織田信長没年である1582年に開かれた、織田家の後継者問題及び領地再分配に関する会議。
  6. Office ENDLESS produce vol.11『四谷怪談』。2012年7月初演。2015年5月Office ENDLESS produce vol.17で再演。
  7. Office ENDLESS produce vol.13『知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆の如し』。2013年12月初演。2015年7月Office ENDLESS produce vol.18で再演。
  8. 「嗟非常人、好非常事、行是非常、何死非常」(ああ非常の人、非常のことを好み、行いこれ非常、何ぞ非常に死するや〔貴方は常識とは違う人で、常識とは違うものを好み、常識とは違うことをする、しかし、死ぬときぐらいは畳の上で普通に死んで欲しかった。〕)という平賀源内の墓碑に記した言葉。源内の才能に玄白が驚嘆しその死を惜しんだことが伺われる。

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